中野の鼻

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カラスヤサトシ「おのぼり物語」を読もう

おのぼり物語(バンブーコミックス)
 カラスヤサトシの「おのぼり物語」を読んで、非常に感動してしまった。よもや4コマ漫画でここまで感動させられてしまうとは。まんがくらぶ連載時から感動的な内容ではあったが、単行本としてまとまるとここまでの力を得るのか。

 これは、カラスヤサトシ氏の最高傑作かもしれない。

 カラスヤ作品の魅力とは、笑いの向こうに透けて見える闇だと思う。そしてその闇がすべてカラスヤ氏の体験談であることの凄味と臨場感。その凄味をなんでもないことのようにさらりと描いてしまうことも。
 今作品は、今までと反対側からの視点で見た、もうひとつのカラスヤサトシだと思う。闇の向こうに見える面白さ。いや、もっと接近して、闇のなかから見た面白さなのかもしれない。これはカラスヤ氏の視点なのか。
 今までのカラスヤ作品は、カラスヤ氏本人の奇行などを、読者の目をしっかりと意識して紙の上に再現しているような、プロの手によるエンターテイメントであった。今作はそこをあえて覆し、それでもやはりプロの仕事としてきっちりと仕上げている。いやこれがプロとして仕上げようとしたものなのかカラスヤ氏の才能によるものなのかは判断つかない。
 なんとなく上京したカラスヤ氏の不安と孤独と闘争。今までの作品では匂わせるにとどまっていたそれらの要素を中心に、漫画「カラスヤサトシ」の再誕生だ。

 その孤独や不安を、そのままに感じそのままに描くその姿勢に、「咳をしても一人」「墓の裏に廻る」などの自由律詩を残した尾崎放哉を思い出した。さらにそこに、カラスヤ氏独自の世界が加わり、ひとつの文学と呼べるものになっている。

 といってもやはりカラスヤ作品なので、カラスヤ氏らしい独自の笑いはいくつもあり、軽い気持ちでも読めるだろう。しかし、この本に潜む力は普通は見逃せないと思う。
 ぜひとも一度は読んでほしい。本当は「とにかく買え」と言いたい所だが、まずは読んでみるところからはじめるといいと思う。漫画で描かれた詩集であり、4コマの形に最適化された文学だ。

 ちょっと誉めすぎたかもしれん。読んだ直後の興奮状態で書いたからなあ。


[漫画] Posted by 中野 at 2008-09-18 12:37:58

コメント

くんろく:

1人のホンの数年の人生を通して、ここまで人間の弱さ、脆さなどを透かして見せてくれる漫画を俺も他に知らない。

中野のレビューを読んで次の日買ったんだ。

神保町のマンガ専門店で買ったのに、昨日から1冊も減ってなかった。
自分も教えて貰うまでは買わなかったくせに、
妙にそのことが寂しかった。
一度読んだらもう二度と読みそうに無い萌え萌えなマンガは、横目でチラと見た瞬間にも飛ぶように売れていくのに。

08年のMyマンガアワード、間違いなく現在1位。
聖☆おにいさんも良いのだが、今の時点では間違いなくこれが1位だ・・・
2008-09-20 19:11:18

中野:

 うん、きっとわかる人にはこの本の力はわかるはずだから、と自分に言い聞かせているのだが、やはりこの本を多くの人が知らずに終わるのがもったいない。
 読み返せば読み返すほど、この本の文学性に打ちのめされる。大げさでもなんでもなく。ただしこのすごさに気がつけない人も多いのかもしれない。重ねて残念だ。

 ここ数年でのトップでさえある。ある面では世界の孫をも超えた。
2008-09-20 21:15:28

くんろく:

世界の孫ね・・・
ロイヤルバレエは最高だったぜ。
2008-09-21 22:06:44

中野:

 バレエ編も神がかっていたけど、2巻のイカ編は壮絶だったぞ。なんかあ~るの最終回に向かう展開を思い出すほどだ。
2008-09-22 12:39:30

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