中野の鼻

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映画変身

 映画の「変身」を観てきました。感想を書きますが、ネタバレバリバリ含みますので、観に行こうと思ってる人、小説「変身」が好きな人、その辺の人は読まないほうがいいよ!でも、どうしようか迷ってる人は読むと観に行きたくなるかも。

 結論だけ書くならば、原作好きならまあ観とけ。というか、必見だな。観た直後はアレな感想を持つけど、しばらく経つとジワジワと効いてくる。良い映画です。マジで原作が好きなら観ないと損する。大丈夫!すいてるから!
 とにかく原作「変身」の再現度はメチャメチャ高いです。良くぞここまで「変身」を映像化したものだと。映像も美しく、リアルで繊細、でも何か滑稽で笑える、カフカの文体そのままの映像世界ではないでしょうか。

 という感じで感想です。


 変身を映画にすると聞くと、すべての人が疑問に思うのは「虫をどのように表現するのだろう」という点だ。事実中野もそう思った。そもそもフランツカフカは毒虫と言う言葉を文字通りの毒をもった虫として書いてはいないし、本人も毒虫がどんな虫なのかは表現したくないと言い切っている。そう思い映画を見ると、ああなるほど実に無難な手法で来たな、と半ば安心半ばがっかり。「ま、確かにソレしかないわな!」と。

 でも、この手法は確かに小説を再現するためにとった手段としては最良のものだ。「変身」は、虫になるという形でザムザが社会生活不適合者になったことをあらわしている。ひきこもりとか心身の病気とか、とにかく突然仕事も何も出来なくなって家族のお荷物になる。そのひとつのケースとして虫になるという状態。つまり、一家の働き手が突然発狂してしまった状態と同じ事。そう、ザムザは虫という狂人になったと見れる。それが映像に現されている。
 同時に、文字を読んだそのままの表現としての虫。これもフィルムでは表現されていた。壁を這い回ったり、体が壁なんかにぶつかる音が硬質な物だったり。虫になったザムザを見た人間のリアクションも、あの映像どおりのものではなくまさに巨大な毒虫を見たものとして書かれている。映像のザムザと劇中人物の見たザムザはまったく違う姿をしている。
 こうすることで、変身の持つ二つの内容を同時に映像化することに成功している。完璧な再現といった意味はここだ。いや、ここ以外にも原作再現度の高さは全編にバシバシ溢れているのだが。

 でも映像化するなら、監督の見立てというものがあるはず。ただ100%再現ではそれは映画ではない。この映画の、監督部分はどこなんだということだ。当然あの再現度はあの監督だから出来たことだろうけど、逆に言えばここまでしっかりと「変身」を再現できている人による見立てもまた観たい。
 まずザムザ変身前のシーン。ザムザ帰宅シーンと家族の風景。短い時間でザムザの人間を手っ取り早く表現しつつ、人間時代最後の日としてのグレタの希望も見事に書かれている。ザムザが働いていることで油断しきった人生を送っている両親もここで見事に描かれる。不安な夢の映像の美しさも見事。
 そして、虫になったザムザが何度か見る、人間ザムザの夢。「変身」でよく語られることとして、ザムザは人間に戻りたかったのかどうかということがある。そういった議題へのひとつのアンサーとして夢のシーンがあるだろう。カフカの書きたかったものがモロく崩れる家族の絆だとしたら、仕事に行けなくなったザムザはそのことをまったく無視していてもいけない。ひきこもりにだって後ろめたさはある。そう考えると、この夢のシーンは重要。
 最後も小説と同じなのだが、ひとつ違う点がある。家政婦がザムザの死骸を発見したシーンで、それを外から眺める人間ザムザがいる。これを霊的なものと捕らえるかどうか。個人的にはそう思いたくない。ザムザの死骸を映さずに、なぜかそれを見ている人間ザムザを描くことで、ザムザは最後まで虫だったのか、それとも死ぬときは人間として死ねたのか、そこを語っているのだと思う。
 また、原作がほぼ全編一人称視点で語られていることとも関係がある。はたしてザムザは本当にラストシーンで死んだのか?あの後も生きているという意味ではなく、ザムザはいつ死んだんだ。不安な夢を見て死んだのか、虫になってしばらくして死んだのか。父親からリンゴという形で苦痛を与えられたときに死んだのか。

 こういった原作を読んでいくうちに自然とわく疑問、その疑問そのものが「変身」の魅力だと言うことはわかる。だけど、ここまで良い「変身」を観せてくれたのだから、さらに監督自身の色気も欲しいというのはちょっと贅沢か?


 と、文章に書くのはこれくらいにしておきます。実際はここに書ききれない程に感想というか、「変身四方山話」があるのですが。

 映画を見てないけど原作は読んでいて、上の糞長い駄文に共感していただけたかがもしいるなら、何が何でも渋谷ユーロスペースに行くべきだ。そして中野とガッツリ7時間くらい「変身」で語るといいと思う!
[鼻文章] Posted by 中野 at 2004-11-24 22:53:45

コメント

amnesiac-moon:

>しばらく経つとジワジワと効いてくる

まさにそんな感じですね。
映像がかなり強烈だったんで、
あとでふいに思い出すたびに震えがくるような感じが何度もしてます。

ザムザの死に関する考察あたりはなるほどと思わされました。
ホント原作も含めて色々語れそうな映画ですね。
2004-11-25 08:10:58

刺身。:

後からジワジワか。
いいねぇ、今度観ようかな。

ジワジワ映画なら私は『殺し屋1』を勧めるよーな人間ですが。
2004-11-26 02:03:21

美少女:

うん。
なんかこう、しっくり来過ぎてしっくり来ない、そんな感じでしたね。
よくよく考えてみると、やっぱあの監督さん色気結構出してるような。

ところでわたしは『ダンサーインザダーク』あたりはわりとじわじわ映画だと思ってるのですが。
解釈次第かな。
2004-11-26 02:35:30

みえ:

考察、深いですね!
TBさせてもらいました。

私は、途中で何度か「口から粘液吐くのでは」と身構えてしまいました。
そんなレベルで・・・はずかし。
2004-12-09 20:40:10

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自分マーケティング - pinged at 2004/12/09 20:08
変: 映画「変身」を観た。 予告編で既に通路向こうのおじさんが大イビキをかいていて焦る。 そして本編、恐ろしいほど原作に忠実でびびる。。 なにしろ原作自体が非条理なので、「つっこみ魂」が疼く映画だと思う。 つ...

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